現代人のための教則本:MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体

メディアという形のないものを、目の前にありありと浮かび上がらせてくれる本。



スマホやSNSの普及により、マスメディア、ソーシャルメディア、個人メディア、etc…と、言葉を目にしない日がないぐらい、メディアは私たちの日常に溶け込み始めています。

テレビ、スマホ、Facebookなどのツールを毎日のように使っているにも関わらず、そもそものメディアって何なの?ということが正直良くわかりませんでした。

何を学ぶにしても、初学者にとって最初にどんな先生を選ぶかは最も重要なポイントですが、良い先生に当たったと思います。

メディアという世界は、Kindleによる電子書籍の波に揺れる出版業界を始めとして、今最も変化しつつある領域の一つ。

そういう変化が激しい世界だと、立場によって見え方が違うので、専門家によってもしばしば意見が激しく食い違う。既存メディアの人達が、ネットは便所の落書きだと中傷し、ネット側は、マスゴミと揶揄するのが、例えは低俗としても象徴的。だからなかなか網羅的な把握がしづらかったりします。

著者の田端信太郎さんが関わってきたメディアは、ご自身が「2ちゃんねるまとめブログから超高級ファッション誌」と書いているように、R25、livedoorニュース、livedoorブログ、BLOGOS、VOGUE、GQJAPAN、WIRED、LINE、NAVERまとめなど。印刷/デジタル、リアル/ネット、一般/高級、とめちゃくちゃ幅広いジャンルを網羅。36歳にして、飛ぶ鳥を落とす勢いのLINEを抱えるNAVER Japanの広告事業の責任者でもあり執行役員。

その幅広い経験を元に、古今東西に共通するメディアというものの本質と影響力を丁寧に解き明かしつつ、テクノロジーとの関係、ビジネスとしての視点、個人への影響まで網羅的にカバーしている良書だと思います。

で、こういう凄い経歴の人が書くxxx論みたいな本って、往々にして自叙伝になりがち。

どういうことかというと、例えば・・・

俺はこんな凄い経験をした!(具体例)→ (抽象化/一般化すると)つまりこういうことだ!

いや、それはあなたが、たまたまそうだっただけで、抽象化するにはサンプルが足りないのでは・・・経営者が出す本とかによくありますよね。経営論の体裁の自叙伝。

結局こういう方って、きちんとしたxxx論を語りたいのではなくて、自分を語りたい。俺は凄い!俺LOVE!

愛の対象が自分に向いているんですよね。。。論じゃないから、他の人が応用できない。

でもこの本は違う。

著者自身ライブドア事件の真っ只中にいたり、もの凄く色んな体験をしているはずなのに、自分の経験談はごくわずか。

にも関わらず、論を進めるときの例え話がぽんぽん出てくる。それがまたものすごく分かりやすい。

本当に「何か」を伝えたい時って、相手がどうやったら理解できるか真剣に考えて、(自分の経験談にこだわるのではなく)その人に一番伝わりやすい例え話を選びますよね。

そんな感じ。

愛の対象が自分ではなく、伝えたい「何か」に向いているんですよ。この場合は「メディア」。

メディアというものを昔からずっと真摯に見つめ、自分の経験からだけでなく、幅広い書籍を読み込み、先人、同業種、異業種との膨大な議論の蓄積を通して、理解を網羅的に広め、かつ徹底的に深められたのだろうなぁ、と感じます。




20世紀は、物理的な力が個人に解放された世紀です。その最たるものが自動車。好きなところに自分を自由に移動させることができるようになりました。

21世紀(全体は分かりませんが、少なくともこれから10年)は、メディアの力が個人に解放される時代になるでしょう。そういう意味で、メディアとは何か?なぜメディアは影響力を持つのか?ということを理解しておくことは、自動車の運転免許と同じように、個人が身につけておくべき最低限のリテラシーにこれからなってくるはず。

堅い話は置いておいたとしても、本当に好きなものを語る人の話を聴いてると、実際に自分が見てなくても、その人の話から眼前にそのものが見えてくる感じしませんか?

(至って真面目な本ですが)200p全体に論と愛が詰まった本。個人にとってのメディアの重要性がどんどん増す中で、私はきっと何度も読み返すと思います。






ちなみにカジケンの会社、絶賛エンジニア募集中です!(笑)