先日告知しましたが、実のいとこが純文学の新人賞の一つである、新潮新人賞をいただきまして。
【祝】いとこが第45回新潮新人賞を受賞しました!! | カジケンブログ
(ちなみに芥川賞のノミネートは文學界、新潮、群像、文藝、すばるの文芸5誌に掲載されたものから多く選ばれているそうです。)
ってことで、読んでみました。
ちなみに私は小説という類を買って読んだことはこの20年ぐらい記憶にないほど、全く詳しくはありません。あともちろん実のいとこですので、そのへんのバイアスは当然あるという前提でよろしくお願いします。
とはいえ、いきなりですが内容については新潮の編集長がまとめてくれており、それが分かりやすいので、引用します。
「虚構への意志」
◎第45回新潮新人賞が上田岳弘(34歳)「太陽」に決まった。近年の同賞受賞作のなかでも虚構への意志が破格に漲ったものではないか。なにしろ新宿の安ホテルでの大学教授と風俗嬢の出会いから始まる物語は、たちどころにアフリカ中央部へ、パリ十八区の蚤の市へと飛躍し、各地の登場人物たちの運命が絡み合い、太陽の核融合システムや錬金術史が作中に織り込まれ、ついには人類の進化、果ては地球の終焉まで描かれるのだから。誇大妄想的なホラ話? だが、かくも破天荒な作品世界さえ受け容れうることこそが小説の可能性であり、それを新人作家は野蛮に行使してみせたのだ
編集長から|新潮|新潮社
まさに書かれている通りでして、これほど壮大な話を、たった60ページ足らず、文字数にしてわずか4万字ほどで、お話として面白く読ませるとは驚きました。最近の有料メルマガでも、ものによったら一本4万字超えてるものがあるぐらいなのに。
そういえば、この小説を読みながら気づいたのですが、私なんとなく小説って主人公が一人いてその人の視点でその人に読者が感情移入して読み進める、みたいなものを無意識に想定していたのですが(不勉強ですいません・・・)、この作品はかなり構造的で俯瞰的です。
なにせ主要登場人物だけで10人いて、しかもそれぞれの視点で物語が進み(ドンゴ・ディオンム、春日晴臣、トニー・セイジ、高橋塔子、カレン・カーソン、ケーシャブ・ズビン・カリ、トマス・フランクリン、チョウ・ギレン、通り魔、田山ミシェル)、視座は極大は太陽そのものから極小は素粒子、時間軸も、現代からおそらく数百年から数千年先の未来まで。
非常に僭越ではありますが、構造的に人間や社会全体を捉えようとする視点は、自分と感覚が似ていると感じました(笑)
根拠がないわけではなくて、去年このブログを再開したばかりの頃、彼からメッセをもらったとき、
“カジケンブログで気に入った記事は、
わたしたちが生きている2つの世界。 | カジケンブログ
で、ちょうど今書いている小説は、この記事中にある2つの世界の内の「取替えのきく世界」にフィーチャーして書いているんだよね”
って、まさに今回の作品がその時書いていた小説だったようです。
まー、スケール感が違いすぎて、ぶっちゃけ個人的には男として何というか敗北感しか感じないのですが(笑)
それはいいとして。
マクロとミクロの視点を縦横無尽に行き交う本作品ですが、通奏低音のように物語全体に流れているのは、
有限の時間と肉体に縛られるからこその、現代の人間と社会の限界
であり、
しかし有限ではなくなったら、果たして価値とはそもそも何になるのか?
という問いかけであり、
(有限であることに起因する)不平等な世界をどう乗り越えていくべきか?
という彼の問題意識です。
面白いなぁと思ったのは、有限であることで不平等が生まれ、それが(実質的に)無限になれば不平等がなくなるだろうという視点です。作中でもカレン・カーソンが一人目の夫との関係で悩むところで不運について描写されていますが、このあたりまさに最近よく考えることで、
どんなサイコロ使ってる? | カジケンブログ
この記事で大数の法則に触れましたが、不平等の代表格の一つでもある「運」って結局時間を引き伸ばせば関係なくなるんですよね。
以前プロの占い師の方に記事に対する感想を頂いた中で教えてもらったのが、四柱推命の考え方で、
”五行のバランスの取れた運のいい命式に生まれても、巡りくる大運や流年、流月の五行によって、バランスは崩れます。10年ごとの大運が60パターンすべてを巡るのに600年かかるので、人間の寿命が600年あれば運は平等になると私の師匠は言ってました。”
と仰っていたのと、シンクロするなぁ、と。
ではどうすれば良いか?
作中に答えは、はっきりと明示されてはいません。
が、読むごとにその大きな構造の中で、有限な人生を抱える人間としてどう生きるべきか、そしてそんな人間の集合体である社会はどうあるべきか、自分の考え方や立ち位置を自然と考えてしまう。自分にとっては脳みそを刺激される面白い作品でした。
もしご興味あればぜひご覧になって、感想をTwitterやブログなどでお聞かせください。11月号なのでまだ、店頭にも置いてあるでしょうし、Amazonでも買えるようです。